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ラボラトリー長より

 国連のアジェンダ2030に示された「持続可能な開発」のための17目標は、地球規模の課題に国や地域を越えて協働体制を構築するグローバルパートナーシップが求められています。アカデミックなシーンでも、複合的な課題解決のために、分野を越えて協働するインターディシプリナリー・アプローチも広まっています。現在の、そしてこれから生じるであろう複合的な課題には、こうした枠を越えた協働体制で取り組まなくてはならないということは、現代の研究者にとって常識になりつつあります。

 そうした中で、現在の言語研究のあり方をふり返るとどうでしょう。

 言語研究は、言語の仕組みが説明できればよいと考えてはいないでしょうか。研究計画にしても、どの言語現象をどの枠組みで説明するかは詳細に語られても、その成果が何に結びつくのかは、はっきりしないことが少なくありません。仮にアウトカムが示されても、それは言語研究の枠内にとどまっています。社会的な要請とは別に、言語研究者の興味と言語学界の動向という、言語学の枠内で完結しようという姿勢が浮かび上がってきます。

 現代の、そしてこれからの社会において、言語研究に求められるのは、単に言語現象を説明することだけではなくて、言語研究で何が出来るかを提案することにあるのではないでしょうか。

 本ラボラトリーは、「人文社会国際比較研究機構(ICR)」において、言語研究の分野を担う組織です。「総合言語科学」となっているのは伊達ではありません。従来型の真理追究型言語研究と並んで、他の分野・領域と協働でさまざまな複合的課題に挑む、実践課題型の言語研究をさらに開拓しようという意気込みを込めています。

 本ラボラトリーは、言語研究に関わるいくつものリサーチ・ユニットやリサーチ・グループにより構成されています。理論型の言語研究やリファレンスグラマーに関わる研究など、従来型の言語研究のほか、デジタル・ヒューマニティーズについてのリサーチユニットや児童・生徒の作文支援に関わるリサーチユニット、辞書の構築に関わるリサーチグループなど、実践的な課題を解決することを目的とした研究も進められています。

 言語の真理を追究するとともに、社会と連動し他分野と連携して、言語研究でなにが出来るのかを提案し続けるのが、本ラボラトリーの仕事であると考えています。

2016年5月
総合言語科学ラボラトリー長

矢澤真人